スペードの高校時代のバンド話 その3

バンド運営

こんにちは Coffee and Sugar スペードです
Coffee & Sugarは現在YouTubeに様々な音源をアップしています

昔話シリーズと題して、僕の高校時代の話をしたいと思います
今回はその3になります

スペード
スペード

今回は文化祭ライブ当日の話です

これにて、このお話は最終回となります

地道な自宅練習の甲斐あって、スタジオでの合わせ練習も無事にこなし
盤石の構えで、いよいよ文化祭本番を迎えます
果たして、僕はヒーローになれるのか・・・それでは、どうぞ!

文化祭

うだるような残暑の中、運動部の生徒たちが、自分たちの存在を誇示するかのごとく
死闘を繰り広げた体育祭も終わり、その熱気にあてられた学び舎が、秋の訪れとともに
少し静けさを取り戻してきた頃・・・1年最後のビッグ行事として、文化祭はやってきました

少し高台にある我が母校の、校庭沿いに広がるちょっとした雑木林は
夏の新緑をすっかりと錦秋に染め、柔らかな日差しに照らされていました

生意気にも「芸術の秋とはこんな日のことを言うのかな」等と木々を見やりながら
自慢のマイベースを背負って、校舎までの一本道を歩きます
ふと、周囲を行く他の生徒たちが、遠巻きに僕と背中の相棒に
視線を送っていることに気付きました

「あれ誰だっけ?」「もしかして今日バンド演奏する人?」
そんなことを話している声はしっかりキャッチしていましたが、そこは聞こえないフリ・・・
「よしよし!注目されているぞ!」といい気分になった僕は、少しだけ胸を張りノシノシと
しかし、この優越感を少しでも長く感じていたいため、少しだけゆっくりと歩を進めます

いつもは億劫でたまらないこの上り坂も、その日はとても心地よいものに感じました

リハーサル

教室に入り、友人とダベっていると、いつの間にかホームルームの時間になっていました
いつも朝は不機嫌な担任も、今日ばかりは穏やかな表情で、僕たちとあいさつを交わします
ひとしきり文化祭に関しての連絡事項や注意事項を述べたところでチャイムがなり
「文化祭だからと言って、はめを外しすぎないように!」という
教科書通りの苦言を残しつつ、足早に職員室へ戻っていきました

ホームルームのあとは、自分たちのクラスの出し物の準備に取り掛かりました
バンド活動ばかりを書いていましたが、クラスの方の活動にもちゃんと貢献していましたよ?
学校行事ですからね みんなで協力してやり遂げる!・・・大事なことです
と言いながら、出し物が何だったか全く記憶がないので、きっとやる気はなかったのでしょう

ある程度準備が終わったところで、事情を知る友人たちに一言声をかけてから
リハーサルのために、一旦教室を抜けて、本日の会場である体育館へ向かいます

体育館に着くと、他のメンバーはもう到着していました
いつも校長先生しか壇上しているのを見たことがないステージ上には
僕たちの前にアコースティックの演奏を予定していた別の生徒が立っていて
なにやら忙しそうに演奏の準備を行っています

僕たちも早速、荷物置き場、兼待合室の用具室へ行き、流れの確認を行いました
少しだけ緊張しながら、さっきの生徒の演奏を聴いていると
「はい、ありがとうございましたー!」という声が聞こえてきました
次は僕たちの番です
各々、楽器を手に持ち用具室を出て、壇上に上がります
ステージは思ったよりも高い位置に感じ、体育館の奥まで見渡せました

どこか外部に依頼したのか、ちゃんとしたPAさんが付いてくれていたのは
我が母校ながら、やるな~と思うところです
そこで、しっかりと音響の調整をしてもらい、いい手ごたえを感じた僕たちは
予定している演奏曲を一通り弾いてみます
「うん、いい感じ!」
メンバー全員、練習したことがスムーズに出せている感じがしました
これなら問題ないでしょう あとは本番で実力を出し切るだけです

本番

リハーサルを終えた僕たちは、一度教室に戻り、クラスでの役割に従事します
出番は午後だったので、午前中の残りは教室に、昼食後は体育館に集合という運びでした
昼食中もずっとそわそわしていた僕は、クラスの友人たちから「さっさと行ってこい!」と
半ば追い出されるような形で、体育館に向かいました 申し訳なかったですね

再度集合した僕たちは、最後の確認を行い出番を待ちます
途中、遊びに来た他校の友人たちからの連絡を受けて、体育館まで案内したり
様子を見に来た部活の友人のひやかしに付き合いながら、時間を潰しました

そうしている間に、バンド演奏本番の開演時間が迫り、観客も段々と増えてきます
体育館の半分は埋まるくらいまで集まった人の多さに、一瞬怖気づきそうになりましたが
すぐに「僕たちも早く演奏したい!」というワクワク感の方が勝ってきました
今思っても、なかなか良いモチベーション状態で、臨めたのかなと思っています

そして、いよいよ時間となり、簡単な司会の後
すぐに1番目の生徒の演奏が始まりました
身内の集まりという状況が、追い風に働いていていた節はありますが
僕が想像していたよりも、ずっと会場は盛り上がりを見せていきました
いい感じに会場が温まったところで、僕たちの番がやってきます

再びの壇上、ステージ前を中心に、なかなかの人数が集まっていました
軽く武者震いをしつつ、何食わぬ顔を装い楽器のセッティングを行います
チューニングの最終確認が終わったところで、メンバーとアイコンタクト
気付かれないように、そのままの姿勢で目をつむり、大きく息を吸い込んでいると
カッ!カッ!カッ! というスティックを叩く甲高い音 ――――― 
ドラムカウント 開始の合図です
パッと目を開くのと同時に僕たちは一斉に演奏をスタートしました

途端、会場が「ワッ!」と沸き上がります
当時の流行りの曲だったからということもありますが
決してそれだけではないと思ったのは、僕の勘違いではないでしょう
これまで散々練習してきたフレーズは体に染み込んでいて
まさに思いのままに弾き散らかしました

「気持ちいい・・・」
自分が強く弦を弾けば会場が盛り上がり、弱くすればうっとりする
「僕の演奏は完全に会場を支配しているのではないか?」
そんな錯覚まで起こしてしまうほどの没入感と高揚感でした

その感覚にしばし浸り、1番を弾き終えた頃
演奏中、スカした態度で観客の方を全く見ていなかった僕でしたが
おもむろに観客の反応が気になり、少し様子を見てみようと顔を上げました
(これがいけなかった・・・)

正確無比、かつ躍動感のある、素晴らしいベースライン(注)自己評価です
を奏でる僕に、観客はみな夢を見るようなまなざしを向けているはず・・・
そう信じて疑わなかった僕の予想は、あっさりと裏切られました

視線が・・・観客の視線が・・・・・・・全く僕に向いていないのです
みなの視線の先・・・そこには、スポットライトに艶やかに照らされた
ボーカルの顔がありました

彼がシャウトすれば、それに呼応するように会場は色めき立ち
彼が跳ねれば、みんなもそれに倣います
「ああ、誰も僕を見ていない・・・」

先ほどとは別人のようなテンションになった僕は
今度は違う意味で、また観客から目をそらし、演奏を続けました
一気に意気消沈したものの、染みついた技術は裏切りません
練習の賜物ですね
そうして、気を取り直そうと懸命に弾いていると
次第にさっきの絶望感は薄らいでいき、演奏に集中することができました

そんな時、また周りを見渡すと、ふとギターとドラムと目が合いました
「ニッ!」言葉にすると、そんな表現でしょうか、彼らがそのように笑いかけます
彼らがその笑みにどんな意味を持たせていたのか、分かりませんでしたし
相変わらず注目の的はボーカルでしたが、今日初めて自分が認められたような気がしました

そう、ベースの役割は「縁の下の力持ち」
決して目立つパートではないけれど、ないと確実に支障をきたす
「僕がいるからこそ、他の楽器やボーカルも活きる!」
そんな原点回帰的な思考を胸に、僕の演奏は前半の勢いを取り戻します

その後も特に問題なく演奏をすることができ、
僕の一喜一憂でメンバーに迷惑をかけることもなく、演奏は無事に終了しました

体育館に広がる一瞬のこだま ――‐
直後に起こる拍手喝采 僕たちの初ライブは大成功を収めました
全部で3曲程の短い演奏でしたが、僕は全てを出し切った達成感に身をゆだね
体育館の天井を見上げながら、その余韻にただただ浸っていました

こうして、スペード少年の音楽ライフは、ほろ苦い
しかし、とても多くのものを得たデビューを飾ったのでした

後日談

文化祭が終わり、今年もあと終業式を残すだけとなった高校1年の晩秋
あれだけ夢中になっていたベースに一切触れもせず、3週間が経とうとしていました

ちょうど期末試験が直後に控えていたことから、一気に学生の本業に引き戻され
この半年が嘘だったかのような退屈な毎日を過ごしていました

あとで聞いた話によると、(ボーカル曰く)僕のベースは悪くはなかったらしいとのことでした
一体誰情報だよ・・・と思いながら、でも、不思議と悪い気はしませんでした
誰かが聴いていてくれていた、その事実だけで十分でした

僕は文化祭のヒーローにはなれませんでしたが、この人生初ライブにおいて
人前で演奏することの緊張感や気持ちよさを、知ることができました
結果的に、実はここから音楽から少し遠のくことになるのですが
この経験があったからこそ、現在のバンド活動のモチベーションにもつながっています

以上が僕の高校時代のバンド話になります
ご清聴ありがとうございました

またお会いしましょう!では!

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