競いたい人たち

「ぜってー勝つ!!」
かの有名な少年漫画雑誌ジャンプにて、かつて一世を風靡した連載『NARUTO』の作中
中でも屈指の人気を誇る中忍試験編で主人公のナルトが放ったシンプルだが力強いセリフ
名門忍家系に生まれ、恵まれた才能を遺憾なく発揮し天才の名を欲しいままにしていた
相対する相手、日向ネジに向けられた言葉である
天才(ライバル)に落ちこぼれ(主人公)が挑み、努力の末に打ち勝つ
王道の構図に多くの読者は心をくすぐられただろう
そんな”胸熱”な展開で生まれた名台詞である

――― (絶対に)勝つ
ところで、わたしはこの言葉が嫌いだ
いや正確には嫌いになったという表現が正しい
と言うのは、かつてこの言葉によってひどく嫌な思いをしたことに起因している

新入社員の歓迎会と称した上司連中による品定め会が開かれたときのこと
そこでは「この会社で何をしたいのか」だの「尊敬する先輩は誰か」だの
そんなことを聞いてどうするのかということを散々尋ねられ”言わされる”のだが
わたしはどうにもそういう雰囲気が得意ではなく、「そうですねー」とか
「まだこれからなのでよく分かりません」などとお茶を濁していた

あー・・・早く終わらんかな、この不毛な時間・・・

そんなことを考えてぼーっとしていた矢先
「あ?お前やる気あんの?」 急に頭を殴られたように鼓膜に刻まれた強い言葉
わたしとは対照的にその不毛な質問に一際熱心に答えていた同期のAである

思わぬところからの口撃にびっくりしたわたしは一瞬フリーズしてしまったのだが
そんなことはお構いなしとばかりに、彼は続ける
さっきからお前の態度はなんなんだ、とか
お前にはやってやろうって気持ちはないのか、とか
俺はお前とは違ってうんたらかんたら、などなど・・・
他にも色々と勢いよく捲くし立てられた

そして締めに放たれた言葉が
「俺はお前みたいなやつには絶対負けん!ぜってー勝つ!」だった
純度100% ハッキリと自分に向けられたのだと分かる敵意
コレはなかなかに辛かった
喉の奥がむせる感じがして、声がうまく出せなくなったのを覚えている

勝ち負けに拘るのは決して悪いことではない
少なからずこの世は競争によって成り立っているのだし
それによって見出せる価値もある
競い合い切磋琢磨している姿に感動を覚える人もいるだろう
そういう意味では決して悪いことではない

しかし、それは当事者もその状況を望んでいれば・・・の話
少なくとも当時のわたしは全く望んではいなかった
にもかかわらず、一方的に宣戦布告をされ無理やり戦いに狩り出されたわけだ
このときの気持ちを共感してくれる人は誰かいるだろうか?
この言葉の裏には悲しんだり傷ついたりする人がいるかもしれないという
残酷さをわたしはここで訴えたい

とにもかくにも、わたしは無事に社会人生活の中で最も身近な同期という存在に目をつけられ
その後に渡っても、なにかにつけ喧嘩を売られ嫌な思いをするのだが、それはまた別の話
もっともそれよりも、ことの成り行きを見ていた上司連中が、この状況を止めもしなかったどころか
「お、バチバチだねー!」「いいねー!もっとやれー!」などと焚きつけていたことが
真にショックだったことだ
さしづめ、ジャンプを読む少年少女たちのように彼らは主人公vsライバルの構図を
わたしとAに投影して”熱い感動”とやらを味わっていたのかもしれない
これからこんな競争をずっと強いられるのかと気が遠くなった事と共に
上司連中の檄で益々調子を付け勝ち誇ったような顔をするAの顔は今でも忘れることができない

さて、みなさんは似たような経験をされた方いらっしゃいますか?
もしこんな状況にいる方は一刻も早くその場を逃げ出すことを強くオススメします
というお話でした

おしまい

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